負ける気がしない試合だったけれど、負けた。
高熱息子の出場時間はほんの5分程度。
急な梅雨明けのせいでジリジリと暑いグラウンドで、最後に親友が放ったシュートはネットをかすめ、ホイッスルが鳴った。
めくったユニフォームで涙をぬぐい、挨拶をするキャプテン。
皆それに続き頭を下げる。
いつもより長く感じた。
初めて女子が応援に来てくれたのに、誰も口も聞かず、そのまま帰らせてしまった。
野生動物の群れみたいに、若手先生を囲んで地面に座っている中学男子たち。
体調が心配で息子に声をかけると、無言で追い払われた。
10mくらい離れて、ママ友たちと立っていた。
キャプテンの子のママは誰よりも悔しそうに、なぜか謝っていた。
他の学校の次の前半が終わる頃、サッカー部全員で円陣を組み、引退式が始まった。
みんなが慕っている若手の先生が話し終えると、中3から後輩へのメッセージを促した。
その中で「僕たち、今日どうして負けちゃったんだろう。」と、つぶやくように話し始めた子がいた。
ハッとした、前半はともかく後半は断然いい動きをしていたし、2回大きなチャンスがあった。
すると、ベテランの先生は、「部活ってのは負けて引退するんだよ、優勝した1校以外は。これから部活だけじゃなくて、受験や就職、人生のいろんな場面で一生懸命やっても結果が出せなかったり想いが通じなかったりってことはたくさんある。越えられない実力の壁や、やり場のなさを味わうだろう」と。「その時自分がどこまでやれたか、何を掴んだかが大事」とも。
最後に地区選抜になったキャプテンにみんなの分までサッカーやってこい、と励ましの言葉をかけていた。
キャプテンの子は何を背負ったんだろう?
彼が微笑んだら、空気がふと緩んだ。
お葬式後の、ちょっとした食事の席のような不思議な間があったあと、集合写真を撮ることに。
見たことのない笑顔を見せてくれた。
息子は、「チームメイトが僕を強くしてくれた」と。
そんなことを普通に言えるまで育っていた。
次の試合が終わり、予想通り私学の強豪校Kの勝利。
ふとK校から駆け寄って来た子が。
幼稚園時代に毎日夕方まで一緒に遊んだ、近所のお砂場仲間のR君だった。
うちのチームのキャプテンはじめ、8人のチームメイトがR君に駆け寄って「明日やりたかったよなー!」なんて言ってる。
聞けば、小学校時代からのサッカー仲間なんだとか。
戦わせてあげたかったな。
それにしても、そんな濃い関係の中に入っていっていたのか…
サッカーのうまい親友に「おまえは別の道があるだろ」と口ではからかわれながら、公園で練習していた二人はかっこいいと思う。
一度だけ練習通りに決めた息子のアシストの親友のゴール。
そういう思い出を持って、明日からは朝練のない一日が始まる。