子どもの反抗期、家庭の経済状況や、住んでいる地域の公立校との相性など、昔からある子育ての悩みが減ることはありません。それに加え2020年度から始まる大学共通テストや、2022年4月から18歳で成人となる、まさに時代の転換期。そのタイミングに直接影響を受ける子ども達を持つ親は、漠然とした不安を抱えています。どのようなタイミングで、どんな受験を選択するのが「ベスト」なのでしょう?
我が家には、「18歳へ成人年齢の引き下げ」によって、19歳4月のタイミングで「成人」となる新高校一年の息子と、その二つ下に娘がいます。去年は娘の中学受験、今年は息子の高校受験と2年連続で「受験生の親」を経験しました。連続して二つの受験を比較すると、「中学受験は親の受験」「高校入試は本人次第」という世の中の通説とは全く異なる実感がありました。結論から言うと、中学受験も高校受験も「最後は本人が決める」。でもその一歩手前までは親のサポートが絶対に必要。特に義務教育でない高校受験は、「親子のコミュニケーションの深度」と「情報戦」の比重が、進路への満足度に大きく関わる事実を目の当たりにしました。
附属校人気の背景3つの要因
今年の高校受験に見られた特記すべきことは、附属校人気の過熱ぶりです。その事実を目の当たりにしたのは、青山学院の説明会の予約申し込みの時でした。未曾有の大型台風で中止された第1回説明会の影響もあり、第2回説明会は深夜受付開始するも朝には満員となっていました。問い合わせると「例年にない状況で、正直驚いている。今後の対策はHPにてお知らせします。」との回答。急遽同日時間をずらして追加説明会が開催され、その枠もすぐに満員となっていました。附属校人気の背景には、「大学入試改革への漠然とした不安」、「私立大学『定員厳格化』の影響」、「18歳人口減少時代の生き残り戦略による教育環境の充実」の三つの要因が考えられます。
一つ目、大学入試改革
折しも4月10日付の東京新聞にセンター試験に代わる共通テストの最終試行調査の結果について複数の記事が掲載されていました。「正解率をあげるよう調整してきた数I・Aの記述正解率が、3.4〜10.9%と低迷。」「国語の自己採点と実際の点数が一致しない生徒が3割、採点基準の統一ができるか大きな課題に。」といった、改革の柱のひとつとして導入される国語・数学の記述式問題の問題点が浮き彫りにされたという内容でした。自分達の子どもがテストケースのように扱われるのは気持ちいいものではありません。付随して、記述式の採点者の人件費を考えると、受験料は値上がりされる可能性もある(現在は3教科以上で18000円)とのこと。ということは、複雑化する試験内容に適応した人材を集めて、教え方を工夫せざるをえない予備校の授業料も跳ね上がるのではないでしょうか。
二つ目、私立大学の定員厳格化の影響
早慶、MARCHをはじめとする多くの有名私立大学で合格者が絞り込まれ、非常に厳しいものとなった2017年、2018年の私立大学入試、それを経験された上の子をもつ親御さんは、先を見越して併設大学への進学がある程度保証される附属校を検討されるのも自然の流れです。その一方で「まだ何をやりたいかよく分からない将来の自分の進路を、今決断したくない」子どもの気持ちにも寄り添わなくてはなりません。ここが非常に難しい。息子の仲良いお子さんも、塾やお母様の勧めで私立附属高、国立系列校に合格するも、結局は自分の意思でスポーツの強い都立を受験して、見事第一志望に進学されました。お母様からすれば、国立の系列校なら教育面でも環境面でも金銭面でも理想的な条件ではあります、それでもそれぞれの学校に進んだ場合のメリット・デメリットを伝えた上で、本人の意思を尊重されたとのこと。子どもだけでは集められない情報を与えつつ、自分で選ぶ自由を与えて意思を尊重する、深いコミュニケーションを入学金払込のタイミングの都合で短い時間でとらなくてはいけない。他にも附属校人気の裏では、たくさんのドラマがありました。
三つ目、18歳人口減少対策としての教育環境の充実
三つ目の要因「18歳人口減少時代の生き残り戦略による教育環境の充実」は、先述の二点と比べ積極的な要素が多いように感じます。附属校は受験勉強に時間を費やす必要がないので、以前から探究型の学習が進んでいるところが多数存在します。また併設大学の研究施設や図書館を利用できる、第二外国語をしっかり学べる、現役研究者と交流しやすいなど、環境的にも恵まれているケースがみられます。中学3年生の時点で、やりたいことがみつかっているお子さんのいるご家庭にはぴったりです。大学側は18歳人口の減少の中で、附属校や系列校を増やすことで一定の学力をもった生徒を一定数確保したい。中学・高校側は大学とつながりをもつことで志望者を増やしたいという、両者の意図が合致しています。
その教育する側のモチベーションの高さは、思春期の息子にも直接響いたようでした。学校見学でも校長先生のお話が断然面白かったのです。好きなピアノを続けながら、地元公立中学で始めたサッカーに打ち込み仲間と出会い、部活引退後から勉強を頑張れたのは、本人の入りたい意思の強さ以外のなにものでもありません。今は高校で好きな音楽にのめり込んで、生涯の仲間ができればという願いがあります。
その一方で、娘は地元中学の課題の多さや内申点というシステムに反発し、自分で中学受験塾を選んできて、中高一貫校に入りました。共学で軽音部がある学校を選び楽しく通っています。娘の大学受験の頃には試験改革から4年経っているので問題点も改善され、また「18歳人口減少」で、今よりも入りやすくなっていることを願うばかりです。
受験は大変ですが避けて通れませんし、タイミングは選べます。子どもと深いコミュニケーションが取れる関係が築けていれば、大人が環境を整えることで子どもは自ら伸びると改めて初心にかえりました。整えるべき環境というのは、子どもが口に出さない「お金の問題」や「プライドに隠れた本心」なども把握して、親子で同じ方向を向くことで初めて見えてきます。公立には様々な家庭環境の子がいるので、子どもなりに周りと比較して自分の家の経済状況を子どもなりに把握しています。希望を口に出せずに悩んでいることも珍しくありません。くわえて、子どもは大人が思っている以上にプライドが高く、合格できないかもしれない学校に「行きたい」となかなか口にしません。口に出さない思いも汲み取りながら、子の頭の中に描いている「通いたい学校のイメージ」を聞き出す高度な質問力も求められています。親は様々な角度で、子どもの周りの大人と上手に連携を組んでいくことが求められると感じました。
我が家は塾の先生と連携をとって志望校を把握するように心がけました。結果、受けないつもりでいた付属校に申し込み、春からその学校に通っているという、まさに専門家のアドバイスのありがたみを感じました。また推薦も含めると11校受けるための調査書を引き受けてくださった担任の先生とも、密に連絡をとりました。足りない内申の点が増えやすそうな教科やポイントを教えてもらって、「先生が言ってたよ」と伝えるだけで、「勉強しなさい」というより効果が増します。子どもの成績が上がらない苦手科目の単元を先生から伝えてもらい、上がり始めたら親から「前よりここの点数伸びたね」とサンドイッチ作戦で乗り切ることも有効でした。中学受験塾に馴染めず1ヶ月半で辞め、自信を失いかけていた息子にピアノコンクールを受けさせることで自信を取り戻すよう動いてくれたことを、ピアノの先生にお願いした高校の推薦文を通して初めて知るということもありました。
受験の成功を何とするかによって意見は異なると思います。ですが、親が子どもを囲む大人と関わり、多角的に自分の子の性格を知ることができるいい機会だと捉え直すと、ある意味楽しめるのではないかと思いました。そういった意味で、時代の転換期であろうとも親の役割は「情報収拾と提供」「本人の意思を尊重」の点で変わらないということを改めて実感しました。